世界のソバ料理(3)・・・中国と朝鮮→日本                   15-3-1
「独り門前に出て野田を望めば、月明らかにして蕎麦花雪の如し」と白楽天(772〜846年)が詠んだように、八世紀の長安でソバ花は決して
珍しい風景ではなかった。今も陝西省(長安)を含む中国内陸北部(東北・内蒙古)はソバ生産の中心地である。中国が世界第二位の生産
国で、日本最大のソバ輸入先であることはよく知られている。それだけにソバ粉の用途(線麺・クレープ・粥・腸詰等)は広い。日本の蕎麦切り
に相当するのは「河漏」(写真)であるが、日本式の切り麺ではなくトコロテン式の押し出し麺だ。この押し出し技術が朝鮮に伝わり冷麺(ネン
ミョン)になったという。南朝鮮には「カルックス」(コムギが主)と呼ぶ切り麺もある。ソバの日本渡来は縄文時代だが、北海道・東北への北方
ルートと九州への朝鮮・対馬ルートがあった。「ソバ」は東への永い旅を終え、ようやく極東の地・日本で大輪の「蕎麦文化」を開花させた。
 
平壌冷麺屋(神戸・長田)14-10-8 上段:平壌冷麺下段:河漏 ソバの日本への伝播地図
氏原暉男「ソバを知りソバを生かす」より


元祖を名乗るだけあって創業は1939年(昭
和14年)の老舗である。現在は三代目が経
営している。焼肉と冷麺の専門店。冷麺に
はもうひとつ「盛岡冷麺」がある。成興出身
の青木輝人(ヤン・ヨンチョル)氏が故郷を
懐かしんで昭和29年に再現した。元祖は?
平壌冷麺:朝鮮北部でオンドルで暖めら
れた部屋の中で冬に食べるのが伝統的
な食べ方だ。ソバ粉に緑豆(でんぷん)を
加えて作る押し出し麺。河漏中国古来
のソバ麺。ソバ粉にサトウキビや高粱を
加える。
ソバの起源地・雲南から日本への伝播図。
「モンゴルルート」(雲南から北上しモンゴ
ル・旧満州→朝鮮半島→日本)がメインで
北方の沿海州から北海道・東北へ伝わっ
た(点線)とされる。揚子江ルートはイネ伝
播ルート、ソバは温度帯からいって不適。
 
全世界の穀物生産はトウモロコシ・イネ・コムギが三大栽培物として全体の90%近くを占め、ソバは全穀物15種のうち12位(0.07%)という極
めてマイナーな穀物といえよう。ソバを栽培する国は全27ヵ国、それも北半球で97%、南半球はブラジル・南アフリカ・オーストラリアの三ヵ
国に止まる。最大の生産・消費国はロシア、これに中国・ウクライナが続き、日本は生産で10位、消費では5位を占める。この差を埋めている
のが輸入でダントツの一位にある。ソバは元々地産地消型の穀物なのだが、輸出は中国・ロシア・アメリカの順だ。一人当たりの消費量では、
ブータン・クロアチア・スロバキアが多く・・・日本の約10倍になる。これらの国では日本のように「蕎麦切り」に特化されたスタイルではなく、そ
ばがき・クレープ・カラコック(生地を天火焼き・蒸篭で蒸す)・のべ麺・線麺をはじめパン等にも混ぜられ幅広く食に供されるのが普通である。 
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