忘れられつつある蕎麦の「諺」                           18-12-1
昭和・平成生まれでソバ畑を見た経験のある人は少ない。だが大正・明治生まれとなると様相が変わってくる。ソバ作りをした人
も決して少なくないし、作らないまでもソバ畑を見たことのない人は稀であろう。現在よりも「そば」は我々の日常生活に近い所に
あった。そばに関する諺が多いのはそのためである。「蕎麦屋の只今、紺屋の明後日」はいい加減な言い訳を、「蕎麦屋の湯桶」
は他人の話に横から口(湯桶の形状からくる比喩)を挟むことを言うし、「朝とろ夕そば」は健康的な食事を示唆した。ソバの栽培
に関する諺は更に多い。「そばを蒔くときは水汲みにも逢うな」・・ソバは湿気に弱い。「そばは咽に入ってみねば知れぬ」・・ソバ
の収穫は予想がつかないことを指すし、「すばるまんどきそばの旬」・・おうし座の六連星が南中した時にソバを蒔けの意である。
庵(大阪・布施) 18-9-28 上段:湯桶、下段:ソバ畑 山びこ(大阪・布施) 18-9-28

布施・長堂にある創業21年を迎える老舗
蕎麦屋。現在は二代目吉村昭範さんが
主人。丸抜きから自家製粉する。隣に蕎
麦道場があり海外からの来訪者も多い。
今日は、幌加内産挽ぐるみの九一。
「蕎麦屋の湯桶」の諺は、四角い桶の角
に注ぎ口と把手がついている独特の形状
から来ている。下段:昔は小さなソバ畑が
身近に見ることが出来た。懐かしい風景
だ。田圃もソバ畑も近頃は珍しくなった。
そばうどんとあるが、メニューは蕎麦が
殆どを占める。座席の配置・装飾品・吹
き抜けなど店主の工夫が滲む。釜飯と
盛り蕎麦のセットメニューがウリらしい。
昼時のためか満席状態が続いた。
 
うどん一尺そば八寸  江戸そばには「打ち方・食べ方」の定法(言伝え)があった。「切りベラ23本」「うどん一尺そば八寸」「う
どん三本そば六本」「そばは三っ箸半」等が代表的な例だ。前二つはそばの最も食べ易い形状は、幅が1.3ミリ前後(幅一寸の麺
体を23本に切る)、長さは24cm前後(打つ側の事情もあるのだが省略する)だと言い、後の二つはそばの食べ方、つまり箸でつま
むのはそば六本位が適量で、そばの盛りは三つ箸半(そば20本)程度が粋で美しいというのである。しかしこれではいかにも量が
少ないようにも思える。だが、和食の箸使いのマナーにある「箸先5分(1.5cm)、長くて一寸」や「蕎麦や寿司で腹をふくらますのは
野暮、腹が減っているなら飯を食え」
(江戸っ子の心意気)とを併せ読むと「江戸そばの定法」も理解できるのではないだろうか。