文芸(小説)作品に登場する「蕎麦」                            19-1-4
「蕎麦」を作品に登場させた小説家は数多い。が、その中から代表的な作家をと言われれば、筆者は夏目漱石と池波正太郎を
挙げる。漱石は処女作「吾輩は猫である」で迷亭先生に「江戸風蕎麦の食べ方」を長々と講釈させたし、「坊ちゃん」では主人公
に天ぷらそばを4杯も食べさせ騒動の原因を作った。また留学中、妻への手紙に「帰国第一の楽しみは蕎麦を食い・・・」と書き自
らそば好きを認めている。一方、正太郎は「鬼平犯科帳」等の江戸物には必ずと言ってよいほど蕎麦屋が登場する。それだけで
はない。随筆「何か食べたくなって」では並木・池之端薮を讃え、「男のエチケット」では池波流蕎麦の食べ方を披瀝する。この二
人は別格としても、田山花袋・志賀直哉・森鴎外等の古典、村松友視等の現代作品も外す訳には行くまい。限がないのである。
こごろ(京都・大原野神社) 18-11-15 遠来の「江戸ソバリエ一行」(上段)と
14年前の「かね井」の暖簾(下段)
かね井(京都・鞍馬口) 18-12-7(再)

桜と紅葉で有名な京都・大原野神社境内
に建つ。2018年オープンの新進気鋭。リ
ーガロイアルホテルで10年イタリアンを、
枚方の名店「天笑」で蕎麦を3年修業。そ
ばがき・そば粥・粗挽きそばも楽しめる。
上段:Facebookで知り合った江戸ソ
バリエのご一行。これで三度目の「京
都蕎麦屋巡り」 下段:14年前に訪問
したかね井の暖簾。汚れたので交換
したようだ
引き戸は当時のまま。
京都を代表する名店のひとつ。ミシュ
ラン★が続く。14年前に訪問した時と
暖簾が変わったくらいで変化なし。
ご夫妻だけで店を回す姿も以前と同
じ。本当に京都らしい蕎麦屋だ。
 
漱石は本当にそば好きだったか  実は、漱石の蕎麦好きについては異論もある。漱石の次男・伸六が著書「父・漱石と
その周辺」の中で「父を蕎麦好きと考えるのは、少々早計に過ぎるので、恐らく、父が、心から蕎麦を食いたいなとどと思ったこと
は、生涯を通じて、そう幾度もあったとは思えない」と疑問を呈したことが原因なのだろう。が、漱石が亡くなったのは伸六が小学
校2年生の時なので、9歳の子供が父の嗜好をどれほど知っていたかは疑問だとする反論もある。しかし著書刊行は伸六59歳の
時のこと、母や4人の姉と兄からの伝聞とも考えられる。漱石の松山中学教員時代の僚友・弘中又一(坊ちゃんのモデル)は「私
が食べたのは「しっぽくうどん4杯だったが、小説では漱石の好きな『天ぷら蕎麦』に変わった」と、漱石のそば好きを認めている。