落語に聞く「蕎麦の食音」           18-6-1
 江戸時代の落語の食べ物ネタには「蕎麦と鰻」が多い。「時そば」「そば清」「疝気の虫」「蕎麦の隠居」「不昧公夜話」「蕎麦の殿
様」等がそれだ。落語の元祖は元和9年(1623)に出版された「醒睡笑」(全8巻)、約1000話が収められているという。江戸に寄席
が現れたのが寛政10年(1798)、それが文化・文政時代には100軒を超えたとされる。落語(歌舞伎・川柳等)と蕎麦の普及の同時
代性を実感するし、落語を通じて当時の蕎麦食の姿を垣間見ることが出来るのも大きい。鈴の音を鳴らしながら屋台を流して行く
様や、割りばし・せいろ・丼等が使われていたこと等、当時の風俗もわかるのである。特筆されるのは、蕎麦を啜る際の仕草と誇
張された食音である。独特の食音”ズッーズッーは落語(とりわけラジオ放送の開始)によって作られたとする有力な意見もある。
たかさご(東京・) 極意(戸隠)

 
 
「蕎麦とうどん」の食べ方 落語は「しゃべり」と「しぐさ」からなっていて、道具は手ぬぐいと扇子だけ。それだけに、「蕎麦
とうどん」を「蕎麦とうどん」を食べ分けるのに苦労を重ねたという。蕎麦は、舌を細目にすぼめて上顎に軽くつけ細かく振動させて
ツルツルと音を出し、口中に入れると小刻みに噛む。うどんは、舌を厚目に広げ軽く上顎につけズルズルと太い音ですすりあげ、
ゆっくりと咀嚼する。実際と「かけ離れる」ことになっても、結果的にお客様が「蕎麦らしい」「うどんらしい」と感じてくれることの方が
大事だとということらしい。誇張された落語の芸(ズッーズッー)が実際の食べ方に影響を与えた、というのが面白いではないか。