八ヶ岳南麓湧水群に挑む蕎麦屋       12-11-1
 日本は水に恵まれた国だとされるが、八ヶ岳(2899m)南山麓に貯まる地下水は日本屈指の量を誇る。全日本ミネラルウオータ
ー生産量の34%を山梨県が占めていることでも証明されよう。八ヶ岳に降り注いだ雨や雪が土中に浸透し幾多の岩盤を抜け麓
で湧水として姿を見せるまでには数十年から百年を超える年月が必要である。八ヶ岳南山麓には数十か所の湧水があり、その
代表的なものは「大滝の湧水」「三分一湧水」である。両者の湧出量は30000t/日に達すると言われる。高原野菜の名産地であり、
飲料メーカーの集積地でもある。人間の体の60〜70%は水だというが、蕎麦の組成も三分の二は水、蕎麦屋が良水を求めて麓
下に集まるのは理のあることである。水は極めてローカルな自然資源であるが故に、他処に求め難いものがあるであろう。
翁(山梨・長坂) 12-10-4 上段:三分一湧水、下段:大滝湧水 森の中に佇む「翁」 

名人・高橋邦弘氏が自家製粉をするため
に東京・南長崎から転居(昭和61年)し
た。遠来の客の「翁詣で」で賑わったとい
う。現在は弟子(大橋誠氏)に任せ、広島・
豊平町へ転居、名前も「達磨」に変えた。
八ヶ岳南山麓にある代表的な湧水。三分
一湧水は三つの村落に公平に水を分ける
ため三角石(写真中央)を置いた。見事な
アイディア。湧水量8000t/日。大滝湧水
は22000t/日。江戸から現代へ続く。
八ヶ岳南山麓、長坂ICから10分の森の中
、標高1000mにある。時の刻みが聞こえる
ほどの静寂。店内は30席程度・椅子席と
小上がり。高橋流の二八蕎麦、甘皮の緑
が艶やかな喉越しの良い蕎麦だ。
軟水と硬水 人間は水なしで生きることは出来ない。排泄・呼気・汗等で毎日約2.5リットルが失われ、飲水・食料・代謝等
でこれが補われている。熱中症はこのバランスが崩れるためだ。日本の水は欧州などと異なって軟水が主流を占める。一口で言
えば柔らかく優しい水である。出汁をとる、野菜を柔らかく煮る、ご飯を炊く、お茶を淹れる・・には軟水が適当だし、肉の煮物やパ
スタ類は硬水が合うとされている。日本酒の名産地・灘は辛口の男酒、伏見はまろやかな女酒と言われる。前者は硬水(宮水)、
後者は軟水(伏水)で造られている。蕎麦も使う水によって出来上がりが異なってくる。硬水を使うとコシが強くなるが繋がりは悪
い。軟水を使うとなめらかで繋がりが良い蕎麦が仕上がる。参考までに、一番美味いと感じる水の温度は「体温−25℃」だという。
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