よく晴れた秋の日に、深浦の海海岸近くの畑で、老夫婦がソバの種子を撒いていた。 そのとき、あわただしい足音とともに、異人を含んだ数人の男たちが、農夫のいるとことへ走り 寄ってきた。何事かと思って振り向いた農夫に「役人に追われている。かくまって欲しい」という。 キリシタンの人たちであることは、すぐに分かった。悪い人たちには見えなかったので、「そこの 崖下に洞窟がある」と教えてやった。すぐに数人の役人たちが息をせき切ってやってき、農夫に 問うた。「たしかに通りました。ソバの種子を撒いているときに」と答えると、役人たちはけげんそ うな顔をしたが、その中の一人が「そうか、余程前ということだな」といった。そのとき、畑一面が 真っ白なソバの花に覆われていることに気がついた。舌打ちした役人が踵を返し、姿が見えなく なると、畑はまた元のままの畑に戻っていた。 五島列島キリシタン史・・・深浦のおとくさん「一ときそば」の伝説として伝えられる。 |