世界の蕎麦物語を始めるにあたって・・

 蕎麦いうと日本固有の郷土料理のようについ思ってしまいます。
いつの間にか「蕎麦=蕎麦切り=日本」という観念にとりつかれてしまい、そこから逃げられなくなっているためです。この固定観念から解放されれば一瞬にして世界に広がる多様なそば食文化が見えてくるのです。

中国南部の高地を発祥の地とするソバは、三方向に分かれて世界各地に伝播して行ったとされています。一つはヒマラヤ山脈の南面伝いにブータンを通ってネパールに入りインド北部からパキスタンに至るルートです。あとの二つは、起源地から北上してモンゴルに入りそこから東西に枝分かれして、シルクロードを通ってウクライナ・ロシアに入りヨーロッパ各国へ伝搬した西ルートと。華北から朝鮮半島を通って日本へ至る東ルートです。このようにしてそばはユーラシア大陸(主として北部)広がり、それぞれ各地の自然と文化環境に適応じてそれこそ多様で独自の百花繚乱ともいうべきそば食文化を開花させています。

そばの実をそのまま食べる「粒食」とそばの実を挽きこんで粉にして食べる「粉食」に大きくは分かれますが、多いのはなんといっても粉食で、その代表格はパンケーキ・クレープ状に焼いたものでほぼ世界全域で見られます。次に多いのは「そばがき」で、アジア・東欧・イタリアなどに見受けられます。また粒食としてはそば粥や雑炊・腸詰めがスラブ諸国が中心に広がっているようです。

そば粉から線状麺に加工して食べる文化は、意外に思われる方も多いでしょうが、アジアとイタリアにほぼ限られています。そのアジアでも日本のように包丁を使った「切り麺」は少なく、大半は心太(ところてん)のような押し出し麺です。

ソバ粉を主材料とするパンはスロベニアに見られるように希な存在(増量材として使う例はある)といえるでしょう。

そばの生産高(2019年)を見ると、ロシアを筆頭に中国・フランス・ポーランド・ウクライナが上位を占め、この後に米国・ブラジル・リトアニア・カザフスタンと続き、日本はやっと10位に名を連ねています。

ロシアは自国消費が中心ですが、中国は相当量を輸出に向けているのが特徴といえるでしょう。日本は消費の八割を中国を中心に米国・カナダ等からの輸入に頼っているのが現状です。人口一人当たりの消費量(データが不完全で正確な統計は存在しない)を見ると、ブータン・ネパール等の標高の高い地域に住む民族が高く、次いでロシア、フランス、スロベニア、中国などが並び、我が国はやっと10位に入る当たりの地位にあると推定されます。

このように「蕎麦=蕎麦切り=日本」の図式は世界レベルで見ると成立しないことが分かります。順次その様子を今月からご紹介して参りたいと思います。

 

                        TOP