世界の蕎麦物語⑤ ミラノで「二八蕎麦」が食べられる?・・ピッツオッツケリの謎
イタリアで二八蕎麦が食べられると聞かれたらさぞ吃驚されることでしょうね。それも、イタリア北部に古くから伝わる郷土料理だといいますから二度吃驚です。 「そば」と伝統料理の「パスタ」が出会えば、そば粉の線状麺(ピッツオッツケリ)が誕生するのは必然であったのかもしれません。それにしても日本の「二八蕎麦」と「ピッツオッツケリ」は作り方がよく似ているのに驚きます。ピッツオッツケリは、先ず「そば粉八に対して小麦粉二」を混ぜ合わせ、水を加えて捏ね、のし棒を使って麺状(厚み1.5mm前後)に延ばし、包丁で「幅1㎝、長さ7㎝程度」に切り揃えて作ります。日本のそばと比べると麺体が幅広く長さが短いというところは異なるものの、作り方はそっくりそのままです。 ところで、「線状麺」の起源地は中国であることは証明済みですが、中国起源の「線状麺」とイタリアの「パスタ」のつながりはいまだ不明なのです。 「マルコ・ポーロ説」にもいろいろあって、その一は「マルコポーロが中央アジアのプハラに立ち寄った折に、麺という食べ物を初めて食べておいしいのに感動しその後何回か楽しむうちに、麺をイタリアに持ち帰ろうと思いついたのですが、麺が折れないように柔らかい麵一本一本に細い針金を通して持ち帰ったといいます。それがマカロニに孔が空いている理由だ」というオチまでついているのです。 この話を「文化麺類学ことはじめ」の著者・石毛直道氏(注1)は、「いずれも作り話だと考えてよいだろう、一人の人物によって地球上の離れた地域の文化が一度だけ伝えられ、それが新しい土地に定着する可能性は小さい。もし、イタリアの麺状のパスタが外来の文化の影響によって成立したものであると仮定したとき、それは持続的交流関係をもってイタリアに隣接する地域に、麺状の食品を作る文化があったからだと想定するのが、素直な発想というべきものであろう」と述べています。 長々と「そば」とは直接関係のない話を続けてきましたが、日本で独自に発展したそば切り文化・・・中でも「二八そば」の作り方が約1万㎞離れたイタリア北部の「ピッツオッツケリ」に酷似していることも不思議といえば不思議なことだといえます。 ピッツオッツケリの外にイタリア北部には「ボレンタ・タラーニャ」があります。日本でいえば「そばがき」にあたる食べ物で、トウモロコシ粉にそば粉を混ぜ合わせて作るもので、これにグリルしたソーセージや牛肉のトマト煮込み、目玉焼き、目玉焼きなどを添えて頂きます。 ピッツオッツケリを食べてみたいと仰る向きには、京都二条城前駅近くのイタリアレストラン「サラザン・イル・ヴィアーレ」をご紹介します。 果たして現在メニューにあるかどうか?・・・未確認ですが・・・ご興味のある方にはお勧めです。1万㎞離れたイタリアに「二八風そば」が存在するという歴史の謎、考えるだけでも楽しくなるではありませんか。 (注1)石毛直道 1937年~ 文化人類学者。国立民族学博物館元館長。令和3年文化功労章受章。そば・麺に関する主な著作。「文化麺類学ことはじめ」「麺の文化史」 |